作品情報
- 公開:2014年01月25日
- 上映時間:127分
- 制作:韓国
- 監督:イ・ファンギョン
- 視聴方法:hulu
キャスト
- リュ・スンリョン(イ・ヨング役)
- パク・シネ(イェスン役)
- カル・ソウォン
- オ・ダルス(ヤンホ役)
- パク・ウォンサン(ウォンサン役)
- キム・ジョンテ(マンボム役)
- チョン・マンシク(ボンシク役)
- キム・ギチョン(ソじいさん役)
- チョ・ジェユン(刑務所課長役)
あらすじ(ネタバレなし)
知的障がいを持つ父ヨングと、聡明で愛らしい娘イェスンの絆を描いた感動作。
ある事件をきっかけにヨングは刑務所へ収監されるが、囚人仲間との交流や娘との再会を通じて、親子の深い愛と人間の温かさが浮かび上がる。
以下、ネタバレあり
あらすじ(ネタバレあり)
🟩起:父と娘の穏やかな日常と突然の悲劇
知的障がいを持つ父ヨングは、娘イェスンと2人で慎ましくも幸せな日々を送っていた。
イェスンはしっかり者で、父の世話をしながら小学校入学を楽しみにしている。
ヨングは娘の憧れであるセーラームーンのランドセルを買うために懸命に働くが、給料日前に売り切れてしまう。
ある日、ランドセルを持った少女ジヨンがヨングに声をかけ、別の店へ案内すると言う。
ヨングは彼女の後をついていくが、途中でジヨンが凍った道で転倒し、頭部を強打して死亡。
ヨングは助けようとするが、その行動が誤解を招き、幼女誘拐殺人の容疑で逮捕されてしまう。
イェスンとも引き離され、ヨングは刑務所の7番房へ収監されることになる。
🟨承:囚人たちとの絆と父娘の再会
7番房には元暴力団のヤンホをはじめ、個性豊かな囚人たちがいた。
最初は歓迎代わりに痛めつけられるヨングだったが、ある事件でヤンホを助けたことで信頼を得る。
ヨングの願いはただ一つ、娘イェスンに会うこと。
囚人たちは協力し、保育園に預けられていたイェスンを刑務所に密かに連れてくることに成功する。
父娘は涙ながらに再会し、短い時間ながらも幸せなひとときを過ごす。
イェスンはそのまま7番房で匿われるが、やがて刑務官に発見され、ヨングは独房へ隔離されてしまう。
その後、刑務所で火事が発生し、ヨングは課長の命を救う。
この出来事をきっかけに、課長はヨングの人柄に疑問を持ち始め、事件の真相を探ろうとする。
🟥転:裁判と冤罪、父の犠牲
課長はヨングの無実を信じ、囚人たちと共に裁判に向けて準備を始める。
ヨングは証言の練習をし、嘆願書も提出されるが、裁判当日、警察庁長官に脅されていたヨングは、イェスンの安全を守るために罪を認めてしまう。
課長も驚く中、裁判はそのまま進み、ヨングには死刑判決が下される。
囚人たちは脱獄計画として気球を作り、ヨングとイェスンを空へ飛ばそうとするが、有刺鉄線に引っかかり失敗。
それでも親子は塀の向こうの夕日を見ながら、束の間の自由と癒しを感じる。
刑務所内ではイェスンの誕生日を祝うイベントが行われ、囚人たちはヨングのために最後の思い出を作ろうと奔走する。
だが、死刑執行の日は刻一刻と迫っていた。
🟦結:別れと希望、娘の誓い
12月23日、イェスンの誕生日にして、ヨングの死刑執行日。
囚人たちはイェスンを招き、ささやかな誕生日会を開く。
ヨングは娘との別れを惜しみながらも、彼女を帰す決断をする。
死刑執行の直前、ヨングは「助けてください」と泣き叫ぶが、その声は届かず、非業の死を遂げる。
課長はイェスンを養女として引き取り、彼女は父の無実を証明するために検事を目指す。
時は流れ、成長したイェスンは模擬裁判で父の冤罪を晴らし、名誉を回復する。
ラストでは、刑務所に残された黄色い風船を見上げながら、父との思い出を胸に刻むイェスンの姿が映し出される。
感想(ネタバレあり)
発達障害の父親と娘の物語と聞いて、真っ先に思い浮かんだのは『I am Sam』。
『7番房の奇跡』もまた、知的障がいを持つ父ヨングと娘イェスンの絆を描いた作品で、観ている間ずっと「どの程度の障がいなら子育てが可能なのか?」という問いが頭をよぎった。
セーラームーンが韓国でも人気だったことを知って、なぜか嬉しい気持ちに。
そして何より、イェスン役の子役がとにかく可愛くて演技が自然すぎる。
まるで本当に数か月間、ヨングと一緒に暮らしてきたかのようなリアリティがあった。
ただ、幸せな時間は冒頭の10分ほどで終わり、物語は一気に悲劇へ。
現場検証のシーンでは晴れているのに大雨という演出に、カメラを趣味とする者としては違和感を覚えつつも、刑務所内での展開はテンポよく、囚人たちとの関係性が温かく描かれていた。
イェスンが2日間もバレずに房にいたことや、課長の計らいで堂々と過ごせるようになる展開には驚きつつも、どこか希望を感じた。
裁判に向けて囚人たちが推理を始めるシーンはワクワクしたし、「これは勝てるかも」と思わせるほどヨングの人柄が周囲に伝わっていく過程が感動的だった。
それだけに、被害女児の父親が警察長官だったという事実や、国選弁護士のやる気のなさが重くのしかかる。
ヨングが娘のために罪を認める姿には絶望しかなかった。
「心神喪失」が正義のために使われることを願ったのは、これが初めてかもしれない。
全てを知っているはずの神様に全部を暴露してほしいと思った。
死刑制度についても考えさせられた。
韓国では1997年以降、事実上の死刑執行停止状態にあるらしい。
それが社会にとって良いのか悪いのかは分からないが、冤罪による死刑の重さは計り知れない。
ラストの「バイバイ」の笑顔からの「助けてください」の叫びは、何度見ても心に刺さる。
やり直し裁判の描写は、弁護士があれほど感情的に訴えかけるやり方で上手くいくとは思えず、ご都合主義的な部分も感じたが、それでも少しでも救いを残そうとする演出には意味があると思う。
残酷だけど、優しさに満ちた良い映画だった。
✅魅力に感じたところ
- 親子の絆が圧倒的に泣ける
知的障がいを持つ父ヨングと娘イェスンの関係が、純粋で温かく、観る者の心を揺さぶる。
子役カル・ソウォンの演技が自然すぎて、実際に親子なのでは?と思うほどのリアリティ。 - 囚人たちとの友情が微笑ましい
7番房の囚人たちは一見悪人だが、ヨングの人柄に触れて協力していく姿が感動的。
コメディ要素もあり、重いテーマの中に笑いが差し込まれている。 - 社会的メッセージが強い
冤罪、障がい者差別、司法の不公正など、韓国社会の闇を描きつつ、希望を見せる構成。
死刑制度への問いかけも含まれており、観た後に考えさせられる。
❓気になったところ
- ご都合主義的な展開
イェスンが刑務所に2日間もバレずに滞在するなど、現実的にはあり得ない描写が多い。
模擬裁判での無罪判決が「本物の再審」のように描かれていて、そんなに簡単に覆るの?と思てしまった。 - 演出の粗さ
雨の中の現場検証シーンなど、天候と映像の整合性に違和感を覚える場面がある。
一部のキャラクター描写が類型的で、深みが足りないという声も。 - 感情操作が強め
泣かせにかかる演出が露骨で、感動を押し付けられているように感じる人も。
ヨングの「助けてください」の叫びなど、辛すぎて観るタイミングを選ぶ作品。
🎥映像について
この作品は、映像自体が語り手のように感情を訴えかけてくる演出が魅力的。
- 温かさと悲しみのコントラストでメリハリがついている
冒頭の父娘の幸せな日常は、柔らかい光と明るい色調で描かれ、観客に安心感を与える。
一方で、事件後の刑務所内や裁判シーンでは、寒色系の照明や影の強調により、孤独や不安を表現している。 - ロケーションとセットの工夫
刑務所のシーンは、韓国・全羅北道益山にある実際の刑務所セット場で撮影されており、空間の閉塞感や生活感がリアルに表現されている。
そのため、狭い房の中でのカメラワークは、親密さと圧迫感を同時に伝える設計になっている。 - 感情を引き出す音楽と映像の連動
明るい場面ではアップテンポな挿入曲、悲劇的な場面では静かなピアノや弦楽器が使われ、映像と音楽が感情の起伏を巧みに演出しているのは韓国映画らしさが満点。
特に「助けてください」と叫ぶラストシーンでは、音楽が一切排除され、沈黙と叫びだけで感情を爆発させる構成が印象的。
以上、「7番房の奇跡」の感想でした。
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