動物界(The Animal Kingdom)/2024

作品情報

  • 公開:2024年11月08日
  • 上映時間:128分
  • 制作:フランス
  • 監督:トマ・カイエ
  • 視聴方法:U-next

キャスト

  • ロマン・デュリス(フランソワ役)
  • ポール・キルシェ(エミール役)
  • アデル・エグザルコプロス(ジュリア役)
  • トム・メルシエール(フィックス役)
  • ビリー・ブラン(ニナ役)

あらすじ(ネタバレなし)

近未来のフランスを舞台に、原因不明の奇病によって人間が徐々に動物の姿へと変異していく世界。
社会はその「新生物」たちを隔離しながらも日常を維持している。
主人公フランソワは、変異の兆候が現れた妻を救うため、息子と共に療養施設へ向かうが、やがて家族の絆と人間性が試される旅が始まる。

以下、ネタバレあり

あらすじ(ネタバレあり)

🟩起:奇病が蔓延する世界と家族の不安

近未来のフランス。
人間が徐々に動物の姿へと変異する原因不明の奇病が蔓延していた。
変異した人々は「新生物」と呼ばれ、凶暴性を持つため施設に隔離されている。

主人公フランソワは、妻ラナがその症状を発症したことで、16歳の息子エミールと共に新しい町へ引っ越してくる。
ラナは療養施設に収容されており、家族は離れ離れの状態。
エミールは母の変化を受け入れられず、周囲にも秘密にしている。

ある日、施設から新生物を移送中のバスが事故を起こし、ラナを含む複数の新生物が野に放たれてしまう。
フランソワとエミールは、逃げたラナの行方を追って森へと向かうが、そこで目にするのは人間とは異なる姿になった者たちの現実だった。

🟨承:変異と葛藤、鳥人間との邂逅

ラナを探す旅の中で、エミールは同級生ニナと出会い、少しずつ心を開いていく。
しかし彼の身体にも異変が現れ始め、耳が尖り、体毛が濃くなり、動物的な感覚が芽生えていく。

そんな中、町の郊外でエミールは「鳥人間」の形容をした新生物フィクスに遭遇する。
彼は半分鳥の姿をしており、エミールに対してじきに敵意を持たなくなり、静かに佇んでいた。
周囲の人々はフィクスを含むその存在に怯え、逃げ惑うが、エミールはなぜか恐怖を感じず、むしろ親近感を覚える。
この邂逅は、彼が「異形」を単なる恐怖ではなく「可能性」として受け止め始めるきっかけとなる。

父フランソワは息子の変化に気づきながらも、ラナを取り戻すことに執着し、家族を再生させようとする。
一方エミールは、自分が「新生物」になりつつあることを受け入れ始め、母に近づいていく感覚を覚える。
親子の価値観の違いが、静かに亀裂を生み始める。

🟥転:再会と選択の瞬間

エミールは一人で森へ向かい、ついに母ラナと再会する。
彼女はすでに人間の姿をほぼ失い、動物のような体毛と四肢を持つ「新生物」となっていたが、エミールの存在には反応を示し、親子の記憶が残っていることを感じさせる。
エミール自身も変異が進行し、体毛が濃くなり、感覚が鋭くなっていく。
森の中でラナと過ごした一瞬は、彼にとって「人間」としてのアイデンティティを手放し、「母と同じ存在」として生きることへの覚悟を育てる時間となる。

一方、父フランソワはエミールの変化に戸惑い、彼を「人間のまま」に留めようとするが、すでに息子はその枠を超え始めていた。
エミールはラナの姿を恐れず、むしろ彼女の中に自分の未来を見出していく。
親子の再会は、家族の再生ではなく、エミールの「選択」の始まりだった。

🟦結:父の決断と旅立ち

エミールの変異はついに限界を超え、言葉を失い、文字も書けなくなっていた。
彼はもはや「人間」としてのアイデンティティを保ち続けられず、完全に「新生物」としての存在へと移行していた。
警察が彼を追う中、父フランソワは息子を守るため、車で森へ向かう。
かつて妻ラナが姿を消したその場所へ、今度は息子を送り出すために。

森の入り口でフランソワはエミールを見つめ、静かに別れを告げる。
エミールは振り返ることなく森へと走り去り、父はその背中を見送る。
ラナと共に生きる描写はないが、エミールが「人間社会」から離れ、「自然の世界」へと旅立つことが示される。
最後のシーンでは、フランソワが一人、エミールの好きだったポテトチップスを食べる姿が映される。
息子の選択を受け入れた父の静かな覚悟と、家族の形が変わったことへの痛みが、余韻として残るエンディングとなる。

感想(ネタバレあり)

序盤から「なに?なにが起こったの?説明して!」と観客に問いかけるような演出で、ぐっと引き込まれる。
こういう「説明を後回しにするタイプ」の映画、個人的にすごく好き。

この作品に登場する「獣人」たちは、どこか美しく描かれていて、単なるバケモノとは違う。
すぐに殺処分できない理由が、映像や空気感に詰まっている。
もし彼らに知能があっても、見た目が「気持ち悪い」場合は、それだけで排除されてしまうのかもしれない…そんな問いが浮かぶ。

その視点で見ると、ADHDを持つ少女・ニナの存在がとても象徴的だ。
彼女は見た目は“普通”だけど、社会で生きづらさを抱えている。
エミールが「違いを受け入れて共に生きる」ことを理解できたのは、彼女との関係があったからこそだと思う。

母親を探してドライブするシーンでは、後部座席から助手席の息子を撮る構図が印象的。
前方から何か獣が現れそうで、妙に怖かった…!

鳥人間に襲われた時、犬が一人で逃げたかと思いきや、ちゃんとお父さんを呼びに行ってて賢すぎる。
なのにエミールはその後警察に「この傷は犬の仕業です」と言ってて、犬も「えっ俺⁉︎」って思っただろうな…(笑)

鳥人間とのやりとりも深い。
エミールは「安全な施設」ではなく、「安全に飛ぶ練習ができる湖」を提案する。
何が優しさで、何を与えるのが本当に相手のためになるのか…彼は「半分あちら側の存在」として、既にそれを理解していたのかもしれない。

鳥って飛べるから最強!と思っていたけど、羽を休める場所を見つけるのが難しい。
動物の一生はあっけなくて、人間の結束力や生み出した道具って本当にすごい。
獣人は孤独だ。
鳥人間にとっては「僕(エミール)がいる」ではなく、「エミール”しかいなかった”」。
だからこそ、あの選択で死ぬことは、本望だったのかもしれない。

もし自分の家族が動物になったら、きっとこの父親と同じようにするだろう。
後半は森の音や水の音がとても美しくて、映像も静かで力強かった。
そして最後に、塩分たっぷりのポテチをもりもり食べるお父さんが、なんだかすごくカッコよく見えた。

エミールはこの先、一人で生きていけるのだろうか。
でも、あのラストは確かに「良いエンド」だった。

✅魅力に感じたところ

  • 1. テーマの深さと多層性
    人間が動物に変異する奇病を通じて、家族の絆・アイデンティティ・社会的排除など複数のテーマを描いている。
    ADHDのニナや鳥人間との交流など、「異なる存在」との共存を考えさせる構造が秀逸。
  • 語りすぎない演出
    奇病の原因や仕組みをあえて説明しないことで、観客の想像力を刺激。
    「説明不足」ではなく、「説明しない潔さ」が作品の詩情を高めている。
  • 親子のドラマが軸にある
    父フランソワと息子エミールの関係が、物語の感情的な核。
    最後に息子を森へ逃がすシーンは、子離れと受容を描いた名場面。

❓気になったところ

  • テンポの緩さ
    中盤以降、説明の少なさと静かな展開が続くため、テンポが悪いと感じる人もいるかも
    アート映画的な構成に慣れていないと、物足りなさを感じる場合もあり。

🎥映像について

この作品は、なにより自然を生かしたナチュラルな美しさが魅力的。

  • 森の緑や水辺の風景が詩的に描かれ、変異した人間たちと自然が溶け合うような美しさがある。
    監督トマ・カイエは、グリーンバックを一切使わず、実際の森や湖などのロケーションで撮影することにこだわり、これにより、自然の光や空気感が映像にリアルさを与え、「新生物」たちが本当にそこに存在しているような説得力が生まれている。
    森の中のシーンでは、木漏れ日や風の音、水の揺らぎなどが繊細に捉えられ、静けさと緊張感が共存する空間演出が秀逸。
  • 特殊メイクとロケーションの融合で、“異形”の存在がリアルに感じられる
    新生物の描写には、特殊メイク+アニマトロニクス+VFXの三位一体の技術が使われていて、
    鳥人間フィクスは、俳優トム・メルシエの全身を型取りし、羽毛をまとった皮膚を再現。
    さらにジャンプやストレッチなどの動きもリアルに演じられている。
    CGに頼りすぎず、俳優の肉体表現と物理的な造形を重視することで、観客の感情移入を促している。
  • フランス映画らしい静けさと余白のある映像設計で、感情を映像で語る力が強い
    森や湖の風景は、単なる背景ではなく、「人間社会からの隔絶」や「自然との融合」を象徴する空間として描かれている。
    特に後半、エミールが森に入っていくシーンでは、映像が言葉以上に彼の内面の変化を語っている
    鳥人間が湖で飛ぶ練習をする場面は、自由と孤独、希望と限界を同時に表現していて、静かな感動を呼ぶ。
  • 映像賞にも輝いた技術力
    本作はフランスのセザール賞で最優秀視覚効果賞を受賞しており、その技術力と芸術性は高く評価されている。
    特に「人間が動物に変異する過程」の描写は、皮膚・筋肉・骨格の変化を段階的に見せることで、観客に「進行する恐怖」を体感させている

以上、「動物界」の感想でした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました