異端者の家(Heretic)/2025

作品情報

  • 公開:2025年04月25日
  • 上映時間:110分
  • 制作:アメリカ、カナダ
  • 監督:スコット・ベック
  • 視聴方法:U-next

キャスト

  • ヒュー・グラント(ミスター・リード役/家主)
  • クロエ・イースト(シスター・パクストン役/ブロンドの宣教師)
  • ソフィー・サッチャー(シスター・バーンズ/黒髪の宣教師)

あらすじ(ネタバレなし)

若き宣教師2人が布教のため訪れた森の一軒家。
穏やかな家主との対話は次第に奇妙な空気を孕み、やがて彼女たちは“選択”を迫られる。
閉ざされた空間で信仰と理性が揺れる、静かに始まる心理の脱出劇。

以下、ネタバレあり

あらすじ(ネタバレあり)

🟩起:森の家への訪問

若き宣教師のシスター・バーンズとシスター・パクストンは、布教活動の一環として、森の中にある一軒家を訪れる。
家主のリードは穏やかで知的な印象を与え、2人を快く迎え入れる。
リードは妻がキッチンにいると話すが、姿は見えない。
シスターたちは布教を始めるが、リードは「どの宗教も真実とは思えない」と語り、宗教に対する懐疑的な持論を展開する。

会話は次第に緊張を帯び、2人は不穏な空気を感じ始める。
帰ろうとするが、玄関の鍵は閉ざされ、携帯電話も圏外で連絡が取れない。
リードは、家の奥にある2つの扉のどちらかからしか出られないと告げる。

🟨承:選択の強要

リードは2人に対し、どちらかの扉を選んで出るように求める。
それは、神を「信じる」扉、「信じない」扉だった。
扉の先に何があるかは明かされず、選択は信仰心を試すものだと示唆される。
シスター・バーンズは冷静に状況を分析しようとするが、パクストンは恐怖と混乱に陥る。

2人は協力して脱出を試みるが、リードの巧妙な仕掛けに阻まれる。
リードは彼女たちの信仰や過去のトラウマを巧みに突いて精神的に追い詰めていく。

パクストンはリードが「自身の考えを誇示したいもの」と考え、「信じない」扉を選ぶが、バーンズはリードの主張を論破し、「信じる」扉を選ぶ。
2人は「信じる」扉を進むが、そこにはブルーベリーパイを持った”預言者”が現れ、それを食べて死亡した。
パイには毒が入っていた。

🟥転:分断と暴力

シスター・バーンズとシスター・パクストンは、リードの支配下で出口のない状況に追い込まれていた。
2人は密かに反撃の合図を決めていた。
バーンズが臨死体験の話を始めると、リードは興味を示し耳を傾ける。
バーンズは語りの中でパクストンに合図を出しリードを刺すよう促すが、その瞬間、リードはバーンズの意図を察知していたかのように、素早くバーンズの首を切る。

バーンズは大量の血を流して死亡する。
リードは死の淵からバーンズが戻ってこないことを残念がりながら、埋め込まれていたチップを取り出し、パクストンに見せる。
パクストンはそれを避妊インプラントだと説明し、さらに、預言者の死体はすり替えられたものであると謎を解く。
リードはパクストンに対して次の選択を迫る。

🟦結:選択と脱出

進んだ先には、衰弱した何人かの女性が監禁されていた。
「唯一絶対の宗教とは?」というリードの問いに、パクストンは「支配である」と答え、リードの首を刺して逃げる。
出口を探して逃げるパクストンは、追いかけてきたリードに腹部を刺され、「祈っても効果はないが美しい」と口にする。

祈りをささげるパクストンに這い寄るリードを、死んだはずのバーンズが殴り殺した。
バーンズは奇跡的に息を吹き返し最後の力を絞り出したのだった。
その後、すぐにバーンズは息を引き取った。
パクストンは家の模型から出口を見つけ出し、脱出に成功した。

感想(ネタバレあり)

待ちに待ったA24の期待作!
映画館の宣伝で何度も見ていたので楽しみにしていました。
「コンパニオン(2025)」そして「マキシーン(2025)」にも出演していたソフィー・サッチャーも出演している。

一言目から「マグナムコンドーム」の話が出る映画、ある?(笑)
ベンチの「サイズなんか関係ないって?」という広告。
それを見て二人がマグナムの話を始めたのか、演出なのか(笑)
道中で「魔法の下着」の話が出てきて、どういうことかと思ったけど、のちに調べたら「モルモン教徒は貞操を守るために膝まである下着を履く」らしい。
こと宗教に関しては日本人は知らない事だらけだ。

どっぷりと宗教に浸かっているシスターであっても、「宗教はもう文化の中心ではないのかも」と考えることがあるんだ。
しっかりと宗教について深く考えている場合、その物事に関して議論がバチバチに出来る。
ブロンドのパクストンはあまり考えられてないから何も話せない。
「なんとなくそんな気がするから」というふわっとした意見。
「一夫多妻制は男の身勝手」って、男性からその意見が出るのはなんかすごい。
「ユダヤ教の信者がごく少数」「イスラム教徒がキリストの復活を願っているか」という点に言い返すのもすごい。

奥さんがいないことは勿論分かっていたんだけど、先日「ノッティング・ヒルの恋人」を再視聴したので、妻が出てくるとしたらジュリア・ロバーツだな!などと考えていた。

自衛はかなり出来ていた。
「女性がいるなら家にお邪魔する。」
「怪しいと疑いキャンドルを見る。」
「黙って逃げる決断をする。」
「自転車とコートは諦める選択をする。」
「裏口ではなく表から出るのでロック解除を頼む。」
この選択の様子から、きっとこれまでの布教活動で、他の意味で危ない目に遭ったことがあったり、かなり厳しく言われているという様子が伺えた。

気になったのは、ししおどしがあったこと。
なぜ…なぜ…(笑)
とくに何も触れられず終わった。

リードの長々しい演説は、聞いているだけで苦しくなった。
私は迷走神経反射と低血圧があるので、立って聞いているだけで失神したかも…。
バーンズも目がグルグルしている感じだった。
「12人の神たち…そして最終的にスターウォーズになるんだ!」
意味が分からなさすぎる。(笑)

話が進んでいくに連れて感じてきたのが、「リードの詰め方、どこかで見たことがある…」。
気づいた。ひろゆきだ。
私は宗教にまったく詳しくないけど、彼の話はどこか”結構調べていて詳しいだけの素人”という感じ。
つまり、本当にバーンズとバチバチに議論しているわけではなく、表面上の初歩的なやり取りにしかすぎない事だ。

「親切にも帰っていいと言っている」というパクストンの発言は面白い。
帰れるのは「当たり前」から「有難いこと」「お赦し」になっている。
こうして人は暴力に抑圧され、従順になる。

預言者が臨死体験を話した時、リードは確かに地下に降りてきていた。
それなのに、なぜ二人は隙をついて逃げてやろうと思わなかったのだろう。
裏口から出るより、彼を閉じ込めたり、再起不能にして、夜を明かすのが良いのではないだろうか…と思った。
私だったら、パクストンの選択をもっと早めにしてるかも。
それも信仰心が邪魔して、「人を傷つけてはいけない」とかがあるのかな?

最終的な脱出方法やら、リードの背景については細かく語られず、少し雑さを感じた。
バーンズは父親の死後に入信したのかな。
モルモン教は避妊も禁止の宗教だったよね?
それより前に避妊をしたのかな。

パイを食べた預言者は、きっと救われたのだろう。
リードに監禁されていた宣教師たちは、その信仰心から自殺を選ぶことが出来なかった。
だからこそ、「信じる」の扉を進んだのだ。
そして「パイを食べて死ぬ」という救いまでの順番待ちをするしかなかった。
それは「選んでいる」のではなく、「選ばされている」、支配という宗教でしかない。

リードにとどめを刺したのは、本当に死んでいたバーンズだろうか?
宗教とは、見たいものを見せてくれる宗派に入信するものだと私は思っている。
きっとパクストンはバーンズが助けてくれる、生きている様を見たかった。
リードにとどめを刺したのは、きっとパクストン自身だろう。
手にとまった蝶はバーンズだろうか、きっと蝶なんかいなかったのかもしれない。
でも、思い込めばそれが見られるのだ。
マグナムだと思えば、マグナムなのだ。

✅魅力に感じたところ

  • ヒュー・グラントの演技
    紳士的な外見と狂気を併せ持つリード役を見事に演じ、観客に強烈な不安感を与えている。
  • 宗教と無神論の対話構造
    モルモン教徒の宣教師と無神論者のリードによる思想の応酬が、哲学的な緊張感を生む。
  • 少人数・密室劇の緊張感
    登場人物がほぼ3人に絞られていることで、空間と会話に集中でき、心理的な圧迫感が持続する。
  • 観客の信念を揺さぶる構造
    “選択”を迫る展開が、観る者自身の価値観を問う仕掛けになっている。

❓気になったところ

  • 脚本の構造が歪で不自然
    伏線や動線が分かりづらく高度で、キャラクターの行動原理が曖昧。
  • 期待していた内容とのズレ
    予告編では脱出スリラーを想起させるが、実際は宗教論争中心で、ジャンルの印象が異なると感じた。
  • 宗教知識が前提になる
    モルモン教や無神論の背景が分からないと、議論の深みが伝わりづらいため、日本人には難しい内容となっている。

🎥映像について

この作品は、“普通の家”を迷宮化させた不穏な美術と、静かな照明設計が特徴的。

  • “普通の家”の迷宮化
    一見平凡な家が、奥に進むほど構造が複雑になり、観客に空間的な不安を与える。
    ダンジョンのような設計が印象的。
  • 照明と色調の静けさ
    暗めの照明と抑えた色使いが、登場人物の心理と連動し、緊張感を高める。
  • カメラワークの抑制
    派手な動きはなく、固定やスローなパンで“逃げ場のなさ”を演出している。
    それにより、観客の視点も閉じ込められる。

以上、「異端者の家」の感想でした。

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