マキシーン(MaXXXine)/2025

4.0

作品情報

  • 公開:2025年06月06日
  • 上映時間:103分
  • 制作:アメリカ、ニュージーランド、カナダ
  • 監督:タイ・ウェスト
  • 視聴方法:試写会

キャスト

  • ミア・ゴス(マキシーン役/ポルノ女優)
  • ケヴィン・ベーコン(ジョン・ラバート役/プライベート探偵)
  • ジャンカルロ・エスポジート(テディ・ナイト役/成人映画業界の代理人)
  • エリザベス・デビッキ(エリザベス・ベンダー役/映画監督)
  • モーゼス・サムニー(レオン・グリーン役/ビデオ店員・友人)
  • リリー・コリンズ(モリー・ベネット役/英国人女優)
  • ミシェル・モナハン(デテクティブ・ウィリアムズ役/刑事)
  • ホールジー(タビー・マーティン役/ポルノ女優、マキシーンの友人)
  • ウリ・ラトゥケフ(シェパード・トゥレイ役)
  • ネッド・ヴォーン(ニュース・アンカー役/ニュースキャスター)
  • ソフィー・サッチャー(マスクアーティスト役)

あらすじ(ネタバレなし)

1985年のロサンゼルス。過去の惨劇を生き延びたマキシーンは、ポルノ業界から本物のスターを目指してハリウッドへ。
夢と名声を追う彼女の前に、過去の影と連続殺人の恐怖が忍び寄る。欲望と狂気が交錯するサイコ・スリラー。

以下、ネタバレあり

あらすじ(ネタバレあり)

🟩起:1985年、スターを夢見る女

テキサスでの惨劇から6年後、マキシーン・ミンクスはロサンゼルスでポルノ業界から脱却し、“本物のスター”になることを目指していた。
彼女はホラー映画『The Puritan II』の主演オーディションに挑み、見事に役を獲得。
自信に満ちた態度で他の候補者を見下しながら、ハリウッドの頂点を目指す日々が始まる。

そんな中、街では「ナイト・ストーカー」と呼ばれる連続殺人事件が発生。
被害者はマキシーンの周囲の人物ばかりで、彼女の人生と事件が奇妙に交差していく。
マキシーンは過去のポルノ映画出演歴を隠しながら、名声と成功を手に入れるために奔走するが、ある夜、彼女の元に“過去”を暴く証拠映像が届く。
それは、テキサスの農場で撮影されたポルノ映画のビデオだった。

🟨承:過去の影と父の存在

マキシーンはそのビデオが誰かに送りつけられたことに動揺し、過去の惨劇が再び自分を飲み込もうとしていることを察する。
同僚の女性が殺害され、焼印を押された遺体が発見されると、警察はマキシーンに疑いの目を向ける。
彼女は「警察とは話さない」と拒絶し、孤立を深めていく。
そんな中、私立探偵ジョン・ラバットが登場。
彼はマキシーンを監視しながら、事件の背後に“宗教的狂信”を持つ人物がいることを突き止める。
その人物こそ、マキシーンの実父アーネストだった。
彼は過去に娘を“神の道”から外れた存在と見なし、殺そうとした過去を持つ。
マキシーンは父との記憶を思い出しながら、名声を得ることと過去を断ち切ることの間で揺れ始める。

🟥転:暴かれる真実と自己決定

父アーネストは「神の意志」として殺人を正当化し、マキシーンの成功を“堕落”と見なしていた。
彼は彼女の周囲の人々を次々と殺害し、マキシーンを“浄化”しようとする。
マキシーンは探偵ラバットをプレス機で潰し、父との直接対決に向かう。

父はマキシーンに「お前はふさわしくない人生を選んだ」と語るが、彼女はそれを否定せず、「私はこの人生を選んだ」と宣言。
宗教的権威と暴力の象徴である父を、自らの手で殺害する。
この場面は、マキシーンが過去の呪縛を断ち切り、名声を得るために“自分の物語”を選び取る瞬間として描かれる。
彼女はもはや被害者ではなく、物語の主体者となる。

🟦結:名声の代償と虚構の勝利

父を殺した後、マキシーンは何事もなかったかのように映画の撮影現場へ戻る。
『The Puritan II』の主演女優として、彼女は堂々とカメラの前に立ち、演技を始める。
その姿は、過去の惨劇も殺人もすべて“演技”として飲み込んだかのような冷静さを帯びている。
映画の中で彼女は「私はふさわしくない人生を受け入れない」と語り、父の言葉を自分のものとして再構成する。
ラストでは、マキシーンがスクリーンの中で微笑む姿が映し出される。

感想(ネタバレあり)

Filmarksの試写会に当選して、渋谷のユーロスペースで5月23日19:00から『MaXXXine』を鑑賞。
A24らしい“カッコよさ”と“シュールなギャグ”が目立つ中で、映画全体を通して「対比」がとても美しく描かれていたのが印象的だった。

まず色味の対比が際立っていた。
通常のシーンは1985年に撮られた日焼けした写真のような彩度低めのトーン。
一方で、血が流れる場面はネオンのような真っ赤なライトで照らされていて、クライマックス以外でもその赤が強調されていた。
車体が潰されるシーンも、黒人男性(親友?)が殺害される場面も、赤が印象的。
観客が「赤」に気づき始めた頃に差し込まれるクラブのシーンでは、マキシーンが緑の服を着ていたように記憶している。
赤と緑の対角構造が巧みに使われていた。

通常シーンでは赤い服や赤い壁が登場しないように感じた。
華やかな女優を目指す女性が多く登場する映画なら、真っ赤なワンピースくらい出てきそうなのに、それらしき“赤”は見当たらなかった。
逆に血のシーンでは赤が支配的。
潰された赤い車、バラバラ死体が入った赤いスーツケースなど。
これまでのホラーでは「血のシーンには白い服」が定番だったけど、A24はその常識を更新してきたように思う。

次に「人」の対比。
売れないポルノ映画女優のマキシーンはパサパサの髪に華奢すぎる身体。
対する監督のエリザベス・デビッキは艶やかなブロンド、逞しいスタイル、知性と品を感じさせる表情と化粧。
並ぶと釣り合わない2人だけど、信念の強さという共通項があり、そこに共鳴してマキシーンが抜擢されたのだろうと感じた。

ラストで一流女優になったマキシーンは、最初と同じようにコカインを吸う。
見た目が少し綺麗になっても、根本の人間性は変わらないという現実を突きつけられた気がした。
でも彼女は「諦めない」ことで夢を掴み取ったとも言える。

「明るさ」の対比も印象的だった。
過去の事件(『X』)がフラッシュバックする頭部作成工房のシーンや、ビデオ再生、弁護士へのカミングアウトなどは暗闇や間接照明の中で描かれていた。
ホテル34階で探偵に脅迫される場面も昼間なのに逆光で顔が暗く見えた。

一方で、探偵をボコボコにする場面は照りつける太陽の下、父親を撃ち殺すクライマックスもヘリのライトに照らされていた。
暴力の場面がこんなに明るいのは異様だけど、それがマキシーンにとっての“正義”だからかもしれない。
そういえば『Pearl』でも殺人シーンは早朝や真昼間が印象的だったな。

画角も気になった。
序盤から中盤までは寄りの画角と切り返しが多かったが、ハリウッドのセット内での命懸けの追いかけっこでは引きのワンカットが使われていて、セットの広さを活かしたギャップ演出だと感じた。

撮影前、監督に呼び出されたマキシーンが「ポルノ映画とは金額が違うわよ」と言われていたのも印象的。
予算かギャラかは忘れたけど、これは「予算をかけなくても面白い映画は作れる」という皮肉にも聞こえた。
実際、この映画や前作たちはそれを体現しているように思う。
(もしすごい予算かかってたらすみません…たぶん比較的低予算だと思う)

タイトルが車のナンバープレートだったり、曲の使い方やカッコいいシーンも多かった。
りんごを食べて口周りが血だらけになる女優が回想シーンで出てきた時はクスッとした。
まだ殺されたか分からないのに、マキシーンの中では“殺されたテイ”で恐怖の顔(ふり)を思い出していたのが面白かった。

刑事が俳優を目指していたという設定も、いかにもハリウッドらしい。
西宮で働く警察官が「昔、甲子園目指してたんだ…」って言うような感じ?

マキシーンの暴力性と、それを生み出す信念の強さは前作『Pearl』にも通じる。
オーディションのシーンもそれを思い出させた。
3部作で観ると、過去2作の二番煎じにはなっておらず、良さを残しつつ新しい視点が加わっていて、通して観る価値のある作品だった。
試写会では、周囲に「過去2作を観ていない」という人もいたけど、本当に楽しめたのかな…。

ハリウッドで女優を目指す若い女性の映画といえば、アニャの『ラストナイト・イン・ソーホー』も記憶に新しい。
あれも違った形で女優になるために苦痛を強いられていた。
マルホランド・ドライブ』でも、女優を目指す女性の精神が崩壊していた。
恐ろしい世界だけど、それを“その世界の人”が描くのは皮肉でもあり、だからこそ描けるんだろうなと思った。

✅魅力に感じたところ

  • 三部作としての構成美
    『X』での惨劇から6年後のマキシーンを描くことで、前日譚『Pearl』と後日譚『MaXXXine』が見事に接続され、シリーズ全体の構造が完成。
    キャラクターの成長と変化が明確に描かれている。
  • ミア・ゴスの演技力とキャラクター造形
    マキシーンは単なる被害者ではなく、自らの人生を能動的に切り開く存在。
    助けを求めず、自分の手で敵を排除する姿勢が一貫していて、強烈な美学を感じさせる。
  • 80年代ハリウッドへのオマージュ
    映画業界の裏側やスターダムの暗部を描きながら、当時の映像スタイルやカルチャーを再現。
    パンフレットのデザインまでキラキラ仕様で、世界観の徹底ぶりが楽しい。
  • 父との対峙と心理的決着
    マキシーンが父を否定せず、肯定したうえで排除するという展開は、単なる復讐劇ではなく、自分自身の人生を肯定するための儀式として描かれている。

❓気になったところ

  • ホラー要素の希薄さ
    前2作に比べてホラー色が薄く、スリラー寄りの展開に。
    ホラーを期待して観ると肩透かしを食らってしまった気もする。
  • パールの不在による物足りなさ
    前作まで狂気の象徴だったパールが登場しないことで、シリーズの“異常性”がやや弱まった印象。
    脚本段階では幽霊として登場する案もあったが、採用されなかったらしい。
  • 豪華キャストの使い方に偏り
    ケヴィン・ベーコンやリリー・コリンズなどの出演者が豪華な一方で、出番が少ないキャラも多く、アンサンブル感に欠けていた。
  • 父の登場による構造のブレ
    『X』ではほとんど存在感がなかった父が今作で急に重要キャラとして登場するため、正直「誰だっけ?」感があり、世界観に浸れなくなった。

🎥映像について

この作品は、なによりロケーションの力を最大限に活かした美しさが魅力的。

  • 80年代スタイルの再現
    画面の質感、照明、衣装、音楽など、1980年代ハリウッドの空気感を徹底的に再現。
    キッチュで派手なビジュアルは、三部作の中でも特にスタイリッシュ。
  • 残酷描写とユーモアの融合
    グロテスクなシーン(スーツケースの死体など)も、少しだけギャグ的に処理されていて、観客の緊張を緩和する演出が見られる。
  • 映像による心理描写
    マキシーンが父を殺す場面や、警察との銃撃戦の中で冷静に行動する姿など、映像が彼女の精神性を語る手段として機能している。

以上、「マキシーン」の感想でした。

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