オールド(Old)/2021

3.5

作品情報

キャスト

  • ガエル・ガルシア・ベルナル(ガイ・カッパ役/保険数理士)
  • ヴィッキー・クリープス(プリスカ・カッパ役/卵巣腫瘍を抱える妻)
  • ルーファス・シーウェル(チャールズ役/統合失調症を患う心臓外科医)
  • アレックス・ウルフ(トレント・カッパ役/ガイとプリスカの息子、6歳)
  • トーマシン・マッケンジー(マドックス・カッパ役/ガイとプリスカの娘、11歳)
  • ケン・レオン(ジャリン・カーマイケル役/看護師、パトリシアの夫)
  • ニッキ・アムカ・バード(パトリシア・カーマイケル役/てんかん持ちの精神科医)
  • エリザ・スカンレン(カーラ役/チャールズとクリスタルの娘)

あらすじ(ネタバレなし)

南国の秘境ビーチに集まった家族たちは、楽園のような時間を過ごすはずだった。
しかしその場所では、時間の流れが異常に加速しており、彼らの身体は急速に老化していく。
脱出不能の空間で、彼らは「時間」という見えない恐怖と向き合うことになる。

以下、ネタバレあり

あらすじ(ネタバレあり)

🟩起:楽園のはずだったビーチへ

カッパ夫妻は離婚寸前の関係にありながら、子どもたちとの最後の思い出を作るため、南国の高級リゾートを訪れる。
ホテルのスタッフは親切で、ウェルカムドリンクを振る舞い、特別な“秘境ビーチ”を紹介してくれる。
カッパ家族のほかにも、医師一家、てんかん持ちの女性、視力障害の男性など、複数のゲストがそのビーチに案内される。

美しい景観に心を奪われる一行だったが、やがて長男トレントが海辺で女性の遺体を発見。
楽園の空気は一変し、子どもたちの急激な成長や、持病の悪化など、身体に異常が起き始める。
誰もが老化していくことに気づき、パニックが広がる。
携帯は圏外、来た道を戻ろうとすると気絶してしまい、脱出は不可能。
彼らは“時間が異常に加速する空間”に閉じ込められていた。

🟨承:加速する老化と崩壊する人間関係

ビーチでは1時間が約2年に相当する速度で時間が進んでおり、子どもたちは数時間で青年へと成長。
持病を抱えるゲストたちは急速に症状が進行し、医師は精神を病み、暴力的な行動に出る。
カッパ夫妻も老化が進み、視力や聴力が衰え始める。
医師の妻はカルシウム不足で骨が変形し、最期は自らの身体に押し潰されるように死亡。
てんかん持ちの女性は発作を起こさずに長時間過ごすが、やがて力尽きる。
ゲストたちは脱出を試みるが、峡谷を通ると気絶し、泳いでも戻される。
トレントと姉マドックスは、ビーチに残された過去の犠牲者の持ち物から、ここが何らかの目的で使われている場所ではないかと疑い始める。
両親が老衰で亡くなった後、2人は生き残るための方法を模索する。

🟥転:暗号と珊瑚礁、脱出への希望

ホテルで知り合った少年イドリブが渡していた手紙には「僕のおじさんは珊瑚が嫌い」と書かれていた。
トレントとマドックスは、ビーチを囲む岩が老化を加速させる鉱石であることに気づき、珊瑚礁の間を泳げばその影響を避けられるのではと考える。
2人は過去の犠牲者の記録を防水バッグに詰め、命がけで海へと潜る。

一方、ホテルでは研究者たちが犠牲者の死を黙祷しながらも、次の治験者を迎える準備を進めていた。
彼らは“少数の犠牲で多数を救う”という倫理を掲げており、冷徹に実験を繰り返していた。
トレントとマドックスは無事に浜辺へとたどり着き、警察官にノートを渡して告発。
製薬会社の陰謀が明るみに出る。
リゾート全体は治験施設であった。

🟦結:時間の支配からの解放

警察の介入により、ホテルのスタッフや研究者たちは拘束され、治験施設としてのリゾートの実態が暴かれる。
トレントとマドックスは、わずか1日で40年以上の歳月を経験したことになる。
彼らは肉体的には大人になっているが、精神はまだ子どものまま。
飛行機で帰路につく2人は、「叔母さんは、こんな僕たちを受け入れてくれるかな?」と複雑な表情を浮かべる。

感想(ネタバレあり)

この映画は、ある意味、大部分がワンシチュエーション映画。
ほとんどがビーチの映像だけど飽きさせないのは、引きとアップという「映し方の緩急」がかなりしっかり計算されているからだと思う。
発作や腫瘍の肥大化などの病気に加え、子供の妊娠の過程に関しては、決定的な発生場面やモノ自体のアップを映さないことで、「高速で流れる時間の中で気づいたら…」という演出にも成功している。

老化という避けられない現象を数時間で経験させるという設定は、最初は恐怖が大きいだろうけど、もし自分が当事者だったら、「焦燥」や「喪失」を感じるようになりそう。
特に子どもたちが急速に成長し、精神が追いつかないまま身体だけが変化していくと、アイデンティティの崩壊が起こりそう…(起こっていたのかも?)

最終的に「姉弟」が生き残るというのも、なんとなくリアルで良い。
まだ10歳前後であれば、子供を作った未熟な男児女児ではなく、やはりきょうだい間の絆が強いのだろう。
私自身、きょうだいがいて心強く感じることも多々あるので、シャマラン監督作品の描くきょうだい構造(「ヴィジット」や「サイン」「ヴィレッジ」など)は抱く印象が近くて嬉しい。

実はこのビーチ、実在するようで(時間の流れが速いかどうかは行ってみないと分からないが)ドミニカ共和国のサマナ半島にある実在のロケーションで撮影されたらしい。
実際の自然の中での撮影だったため、太陽の明るさや角度等、緻密に計算され、撮影現場はスタッフもある意味「時間との闘い」だったとインタビューで読んだ。

また、シャマラン監督作品ではおなじみの「監督自身の出演」も健在している。
そう、ビーチへ向かうバスの運転手役としての登場だ。
彼は登場人物たちを送り届けた後、遠くから双眼鏡で観察しており、物語の裏側にいる“監視者”としての役割も担っている面白い構造だった。

シャマラン監督らしい「種明かし」は終盤にしっかり用意されていて、「なんか知らんけど謎のエリア」ではなく、製薬会社による非倫理的な治験という現実的なテーマが、物語に社会的な重みを加えている。
しかし、謎の現象に関しては構造を明言していないのもこの監督ならでは。
「説明しすぎると恐怖が薄れる」ため、根本の仕組みに答えはないものの、なぜ主人公たちが「選ばれたのか」に関しては種明かしがあった。
その点については、2025年公開の「キャドー湖の失踪」より軸がしっかりしていると感じた。

✅魅力に感じたところ

  • 時間の加速という斬新な設定
    1時間が約2年に相当するという「老化の異常加速」を描いたコンセプトは、とてもユニーク。
    鑑賞者自身が「もし自分だったら」と想像せざるを得ない構造になっており、哲学的な問いかけを含んでいる。
  • 家族ドラマとサスペンスの融合
    カッパ夫妻の離婚寸前の関係や、子どもたちの急成長によるアイデンティティの揺らぎなど、心理的なドラマがサスペンスと並行して描かれる。
    特に、両親が老衰で亡くなる場面は静かで切実。
  • シャマランらしい「種明かし」の構造にワクワク
    終盤で明かされる製薬会社による治験の真相は、倫理と科学の境界を問う社会的テーマに接続されており、単なるホラーでは終わらない深みがある。
  • 観客参加型の緊張感
    異変の兆候を観客自身が「見つける」ように設計されており、視覚的な違和感や音の変化に敏感になる。
    まるで自分もビーチに閉じ込められているような没入感がある。

❓気になったところ

  • 中盤のテンポの停滞
    異変が繰り返される構造が続くため、展開に乏しく感じる場面も。
    特にホラーやスリラーにスピード感を求める層には冗長に映る可能性がある。
  • キャラクターの描写が浅い部分がある
    一部の登場人物(医師一家やラッパーなど)は、ある意味「記号的」に配置されており、内面の掘り下げが少ない。
  • 倫理的テーマの扱いが軽いという声も
    製薬会社の治験という重いテーマが、ラストで急に説明されるため、物語全体との接続が薄く感じられる人も。
    突然の予想外の種明かしが楽しさでもあるが、もう少し伏線が欲しかったという意見も見かけた。

🎥映像について

この作品は、時間という抽象的なテーマを、映像と構造で語る”体験型スリラー“。

  • 自然光と構図の緊張感
    ドミニカ共和国のロケーションを活かし、太陽の位置や潮の満ち引きに合わせて撮影された映像は、時間の流れを視覚的に感じさせる。
    カメラの距離感やパンの速度が緊張感を生んでいる。
  • 老化のメイクと演出がリアル
    子どもたちが青年へと成長する過程や、両親の老衰、骨の変形など、身体の変化を視覚的に見せる特殊メイクと演技が効果的。
    特に医師の妻が骨折するシーンは映像的に強烈で恐怖心を煽る。
  • 水中シーンの象徴性
    終盤の珊瑚礁を泳ぐ場面は、時間の支配からの脱出を象徴する美しい映像。
    濁流に飲まれる演出は、心理的な浄化と再生のメタファーとして機能していると感じた。
  • 音響と無音の使い方が巧み
    赤ん坊の泣き声、咳、沈黙など、音の配置が緊張感を高める。
    ジャンプスケアに頼らず、じわじわと不安を煽る演出がシャマランらしい。

以上、「オールド」の感想でした。

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