カサブランカ(Casablanca)/1946

3.5

作品情報

キャスト

  • ハンフリー・ボガート(リック・ブレイン役/「リックのカフェ」経営者)
  • イングリッド・バーグマン(イルザ・ラント役/リックの元恋人、ヴィクトル・ラズロの妻)
  • ポール・ヘンリード(ヴィクトル・ラズロ役/レジスタンス指導者)
  • クロード・レインズ(ルノー署長役/カサブランカの警察長官)
  • コンラート・ファイト(マヨール・ハインリヒ・シュトラッサー少佐役/ナチ軍将校)
  • ピーター・ローレ(ウガーテ役/パスポート密売人)
  • シドニー・グリーンストリート(フェラーリ役/闇商人・バーのオーナー)

あらすじ(ネタバレなし)

第二次世界大戦下、亡命者が集うモロッコの街カサブランカ。
酒場を営むリックは、過去の恋人イルザと再会する。
彼女は今やレジスタンス指導者の妻となっていた。
混乱と陰謀が渦巻く中、リックは愛と信念の間で揺れながら、運命の選択を迫られる。

以下、ネタバレあり

あらすじ(ネタバレあり)

🟩起:亡命者が集う街と孤独な酒場の主人

第二次世界大戦下、ナチスの侵略から逃れようとする人々が、フランス領モロッコの都市カサブランカに集まっていた。
ここは中立国であるポルトガルのリスボンを経由してアメリカへ渡るための中継地であり、旅券を求める亡命者で溢れていた。
街には金やコネで脱出を図る者、スパイ、レジスタンス、犯罪者が入り混じる。
そんな混沌の中、アメリカ人リック・ブレインは「カフェ・アメリカン」という酒場を経営していた。
彼は政治に関与せず、冷静で孤独な男として知られていたが、過去にパリでイルザという女性と恋に落ち、彼女に突然去られた苦い記憶を抱えていた。

ある日、逃亡用の通行証を持つ男ウガーテがリックにそれを預けるが、直後に逮捕される。
リックは通行証をピアノの中に隠し、事態の展開を静かに見守る。

🟨承:再会と揺れる感情、通行証を巡る駆け引き

リックの酒場に現れた亡命希望者の中に、かつての恋人イルザとその夫ヴィクトル・ラズロの姿があった。
ラズロはチェコスロバキアのレジスタンス指導者で、ナチスに追われていた。
イルザとの再会に動揺するリックは、過去の記憶に引き戻される。
パリでの恋、そして彼女が約束の場所に現れず突然姿を消した理由を問いただす。
イルザは、当時ラズロが収容所で死んだと聞かされていたが、後に生存を知り、夫の元へ戻ることを選んだと告白する。
だが、彼女が本当に愛しているのはリックだった。
イルザはラズロのために通行証を譲ってほしいと懇願し、リックは葛藤する。
一方、カサブランカの警察署長ルノーとナチスの将校シュトラッサーは、ラズロの逮捕を狙って動いていた。
リックは通行証を渡すか否か、愛と信念の間で揺れ続ける。

🟥転:偽りの裏切りと真の決断

リックは表向きにはルノーに協力するふりをし、ラズロを逮捕する計画を持ちかける。
だがそれは、ルノーを欺いてラズロとイルザを逃がすための策略だった。
イルザはリックと共に逃げることを望むが、リックは彼女の幸せとラズロの使命を優先する決断を下す。
通行証を持つリックは、ラズロにそれを渡し、ルノーに飛行場への連絡を命じる。
ルノーは咄嗟にシュトラッサーに通報し、飛行場へ向かう。

🟦結:友情と希望、霧の中の別れ

リックはイルザに「君はラズロと行くべきだ」と説得し、彼女は涙ながらに飛行機へ乗り込む。
その直後、ナチスのシュトラッサー少佐が空港に現れ、飛行機の離陸を阻止しようとする。
リックは彼に銃を向け、撃ち殺す。
ルノー署長はこの一部始終を目撃していたが、リックを逮捕せず、「犯人は逃走した」と虚偽の報告を行う。
これにより、ラズロとイルザは無事にリスボン行きの飛行機でカサブランカを離れる。

事件後、リックとルノーは滑走路を並んで歩きながら、今後の行動について語り合う。
ルノーはナチスへの協力をやめることを決意し、リックと共に自由フランス軍への参加を決意する。
2人はその場を後にし、カサブランカの夜霧の中へと消えていく。

感想(ネタバレあり)

私はモロッコという国について考えたことがなかった。
しいて言えば、有名なヘアオイルがあるな、というくらいだった。
だから、カサブランカという街がモロッコにあることも知らなかったし、フランスの保護領であったことも勿論知らなかった。

映画に登場する「通行証(Letters of Transit)」は、実際に存在した文書ではないが、類似の渡航許可証やビザが闇取引されていたのは事実らしい。
調べてみると、特にナチスの迫害を逃れるユダヤ人やレジスタンス関係者は、偽造書類や高額な賄賂で出国手段を得ようとしていた。
実際、カサブランカには、密航業者や書類ブローカーが暗躍していた記録もある。

そして、映画を見る限りだと、案外街中では「暗黙の了解」で、警察当局(というよりナチス)に知られなければ特に大丈夫、という印象を持った。
アメリカへの亡命が決まった中年夫妻が「アメリカに乾杯」していたり、その直後、ブルガリアから来た新婚の婦人が、亡命費用をカジノで作ろうとして負けてしまったとリックに相談しているシーンは印象的だった。
つまり、ブルガリアの女性に対し、ルノー署長が性的関係を条件にビザを融通しようとしていることを暗示している。
フランス警察はナチスに言われるように動いているだけで、もちろん本望で亡命者の取り締まりをしているわけでもなく、真の敵は警察当局ではないのだ。
しかし、それと同時に、戦時下の混乱と倫理の崩壊の恐ろしさを知った。
女性(特に美しい)の性的価値の高さにもなんだか驚いた。

「旦那は収容所で殺されてしまったと聞かされていた」
その悲しみを乗り越えて、イルザはリックと恋をしたのに、旦那は生きていた。
リックへの気持ちよりも、圧倒的な喜びが大半を占めたのだろう。
それを責める事なんて誰もできない。
自分が孤独になってしまうけれど、愛する人の幸せを祝福してあげられることこそが、本当の愛だと思う。
それは自己犠牲ではなく、相手を想うからこその愛だ。
わたしもリックのように「成熟した愛と信念」を併せ持つ人間になりたい。

✅魅力に感じたところ

  • 時代背景と物語の融合
    第二次世界大戦下という緊張感ある時代設定が、登場人物の選択や葛藤にリアリティを与えている。
    亡命者たちの群像劇としても機能し、個人の愛と政治的信念が交錯する構造が秀逸。
  • セリフと演技の完成度
    かの有名な「君の瞳に乾杯」など、名台詞が多数登場。
    ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンの演技は、抑制された感情表現と視線の演技で、心理的な深みを生んでいる。
  • 構成の緻密さ
    過去の恋、現在の選択、未来への希望という三層構造が、通行証を巡るサスペンスと絡み合い、観客の興味を持続させる。
    伏線の回収も丁寧で、納得感が高い。
  • 脇役の存在感
    ルノー署長やサム、ウガーテなど、脇役がそれぞれの役割を果たし、物語に厚みを加えている。

❓気になったところ

  • 現代の視点では説明不足に感じてしまった
    自身の学のなさ故だが、戦時下の政治構造や通行証の仕組みなど、当時の観客には常識だった背景が説明されないため、現代の視聴者にはやや置いてけぼりになる部分もあった。
  • テンポが淡々としている
    現代の映画に比べると、展開がゆっくりで、アクションや劇的な演出が少ないため、退屈に感じる層もいる。
    最終的な着地点が感じ取れないため、面白い映画なのだろうかと少し不安になる。

🎥映像について

この作品は、映像・構成・演技の三位一体で成立しているクラシック映画の典型。

  • モノクロ映像の階調が美しい
    白黒の陰影を巧みに使い、心理描写や空間の緊張感を演出。
    特に空港の霧や酒場の照明は、場面の感情を視覚的に支えている。
  • 場面ごとのトーンの使い分け
    モロッコの酒場はダークトーンで緊張感を演出し、パリの回想シーンは明るく幸福感を表現。
    終盤の空港シーンでは霧を使って、未来の不確実性を象徴している。
  • 構図と距離感の演出
    登場人物同士の距離やカメラの位置が、心理的な関係性を反映している。
    リックとイルザの再会シーンでは、視線の交錯と沈黙が映像で語られる。

以上、「カサブランカ」の感想でした。

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