作品情報
- 公開:2018年07月27日
- 上映時間:111分
- 制作:アメリカ
- 監督:テイラー・シェリダン
- 視聴方法:U-next
キャスト
- ジェレミー・レナー(コリー・ランバート役/ハンター)
- エリザベス・オルセン(ジェーン・バナー役/FBI特別捜査官)
- ジョン・バーンサル(マット・レイバーン役/石油掘削所の警備員)
- ギル・バーミンガム(マーティン・ハンソン役/被害者の父)
- マーティン・センズメアー(チップ・ハンソン役/被害者の兄)
- ジュリア・ジョーンズ(ウィルマ・ランバート役/コリーの元妻)
- グラハム・グリーン(ベン・ショーヨ役/部族警察署長)
あらすじ(ネタバレなし)
極寒の地ウィンド・リバー居留地で、若い女性の遺体が発見される。
FBIから派遣された新人捜査官ジェーンは、地元のハンター・コリーと共に事件の真相を追う。
過酷な自然と沈黙に包まれた土地で、彼らは理不尽な現実と向き合いながら、少しずつ核心へと迫っていく。
以下、ネタバレあり
あらすじ(ネタバレあり)
🟩起:死体発見と捜査の始まり
ワイオミング州のネイティブアメリカン居留地「ウィンド・リバー」。
野生生物局のハンター、コリー・ランバートは雪原でピューマの痕跡を追っていた最中、若い女性の遺体を発見する。
少女は裸足で雪原を走った末に肺出血で死亡しており、コリーの亡き娘エミリーの親友ナタリーだった。
部族警察署長ベンがFBIに連絡し、派遣されてきたのは新人捜査官ジェーン・バナー。
彼女は土地勘もなく、極寒の地に不慣れな状態で捜査に臨む。
現場の状況から、ナタリーが何かから逃げていたことが判明するが、死因が肺出血であるため、法的には”殺人”と認定できず、FBIの本格的な支援は得られない。
ジェーンはコリーの追跡能力と土地への理解に頼り、捜査協力を要請。
コリーはナタリーの父マーティンに会い、犯人を見つけることを約束する。
🟨承:証拠の追跡と過去の告白
ナタリーの検死結果から、彼女が暴行を受けていたことが判明するが、死因が肺出血であるため殺人として立件できない。
ジェーンは捜査の限界に直面し、コリーの協力を得て独自に調査を進める。
ナタリーの兄チップはドラッグ中毒者で、ナタリーが掘削所の警備員マットと交際していたことを明かす。
コリーは雪原でマットの遺体を発見し、事件が複数の人物に関係していることを確信する。
その夜、コリーはジェーンを自宅に招き、3年前に娘エミリーを失った過去を語る。
エミリーもナタリーと同様に、雪原で変わり果てた姿で発見されていた。
コリーはその罪悪感を抱えながら、今回の事件に強く向き合っていた。
翌日、ジェーンとベンは地元警官を連れて掘削所の警備員宿舎へ向かい、コリーは単独で山へと入っていく。
🟥転:事件の真相と銃撃戦
ジェーンたちは掘削所の警備員にマットの行方を尋ねるが、彼らの不自然な言動に違和感を覚える。
警官の一人が緊張から銃を抜き、現場は一触即発の状態に。
ジェーンが事態を収めようとするが、警備員たちは突然銃撃を開始し、激しい銃撃戦となる。
ベンと警官たちは死亡し、ジェーンも負傷する。
一方、コリーは雪山を追跡し、逃げた警備員ピートを発見。
彼がナタリーを暴行した張本人であることを突き止める。
事件当夜、ナタリーはマットと宿舎で再会していたが、酔った警備員たちが戻ってきて二人を挑発。
マットは暴行され、ナタリーはレイプされる。
彼女は必死に雪原を逃げ、肺が凍って死亡した。
コリーはピートに真相を語らせた後、彼をナタリーと同じように裸足で雪原を走らせ、凍死させる。
ジェーンは防弾チョッキにより命を取り留めていた。
🟦結:報告と別れ
事件後、ジェーンは病院で治療を受け、コリーに感謝を伝える。
コリーはナタリーの父マーティンのもとを訪れ、犯人が死んだことを報告する。
マーティンは静かに娘の遺影を見つめ、コリーと共に亡き娘たちに思いを馳せる。
コリーは雪山に戻り、静かに座り込む。
ラストには、ネイティブアメリカン女性の失踪者に関する統計が存在しないという事実がテロップで示される。
事件は解決したが、根本的な社会問題は残されたままである。
コリーは娘の死と向き合いながら、ナタリーのために果たすべきことを果たした。
ジェーンはこの地の現実を知り、捜査官としての第一歩を踏み出す。
物語は静かに幕を閉じ、雪に覆われたウィンド・リバーの風景が広がる。
感想(ネタバレあり)
ベンの「仮釈放中じゃない?(笑)司法制度が機能したんだな(笑)」というセリフ、サラッと言われたけどこの地域のことを表してると感じた。
制度の空白部分は、まるでウィンド・リバーの白い雪原のようだった。
軽々しくお粗末な犯罪が頻繁に起こる場所で、要するに計画的大事件・超サスペンスではないってこと。
どこにでもあるような、誰にでも思いつくような、安い犯罪だった。
他にもベンのセリフにはかなり「意味」があるものが多い。
「この土地じゃ、殺人以外は連邦の管轄じゃない。だから誰も来ない」
このセリフも、この地域の特徴をよく表している。
「この寒さじゃ、嘘も凍る」
この土地では、嘘をついても通用しない/すぐに見抜かれるという暗示。
地味に、なるほどなと感じた。
「肺が凍って死んだ」という検死結果には、不謹慎だが少しワクワクした。
そんな死因では殺人と認定できず、事件は”なかったこと”にされかける。
どんなトリックなの?どんな事件なの?とテーマに面白みを感じた。
殺人でなければFBIが動けないという現実。
それは、制度が人を守るためにあるはずなのに、制度の隙間で人が死んでいくという矛盾を突きつけてくる。
実は犯人が分かるまで、私はコリーを疑っていた。
娘が同じように数年前に亡くなっている…
もしかして、娘を殺した犯人を見つけたから復讐をして、それが今回亡くなったナタリーだったのでは?
実はコリーは連続殺人鬼で、娘もナタリーもコリーが殺めたのでは?
一連の犯行がバレそうだから、ジェーンと行動を共にしていたりして?
こんなことを考えていた。
というのも、ほとんどコリーの心情や過去が描かれていないからだ。
ジェーンとの距離感も妙だった。
彼女がFBIとして捜査を進める中、コリーはあくまで協力者という立場を保ちながらも、時に主導権を握るような動きを見せる。
彼女が知らない情報を持っていたり、先回りしていたりする場面が続くと、「彼は何を知っているのか?なぜそこまで動けるのか?」という疑問が膨らんでいく。
そして何より、ナタリーの死に方が、コリーの娘エミリーの死と酷似していることが不気味だった。
雪原を裸足で走り、肺が凍って死ぬ。
偶然にしては出来すぎている。
まるで、誰かが「同じ死」を再現したかのように。
しかし物語が進むにつれ、コリーの行動には一貫性があることが見えてくる。
彼は誰かを欺くためではなく、真実に向かって動いている。
犯人を見つけたときの冷静さ、ナタリーの父に報告する姿、そしてラストの雪山での沈黙。
それらを見て初めて、彼の沈黙は罪ではなく、痛みだったのだと分かる。
疑っていた自分が、少しだけ恥ずかしくなる瞬間だった。
けれど、そう思わせるほどに、この映画は「語らないこと」で観客の想像を揺さぶってくる。
だからこそ、コリーが犯人かもしれないという疑念も、物語の一部だったのかもしれない。
最後の最後に、犯人であるピートを雪原に放ち、ナタリーと同じ死を与える場面は、復讐ではなく”対価“のように感じた。
ナタリーは殺害されたのではない。
だから、ピートは殺人罪にはならない。せいぜい暴行罪だろう。
法では裁けない悪に、コリーは自らの方法で決着をつけたのだ。
✅魅力に感じたところ
- 脚本の緻密さと構造の強さ
テイラー・シェリダンによる脚本は、事件の構造と人物の動機が明確で、無駄がない。
伏線の張り方が自然で、終盤にかけての回収が見事。 - 映像と自然環境の演出
極寒の雪原が「もう一人の登場人物」のように機能している。
寒さ・静けさ・孤独が、心理的な緊張感を増幅させる。 - 銃撃戦の演出が非凡
狙撃手コリーが画面に映らず、撃たれる側だけを描くことで「神の裁き」のような印象を与える。 - 社会的テーマの深さ
ネイティブアメリカン女性の失踪事件に関する統計すら存在しないという現実を突きつける。
法が届かない土地での「正義」のあり方を問う作品
❓気になったところ
- コリーの過去が描かれないことで疑念が生まれる
娘の死の詳細が曖昧で、観客によっては「彼が犯人では?」と疑う余地がある。
心情描写が少ないため、感情移入が難しい。 - ジェーンの描写がやや浅い
FBI捜査官としての成長や葛藤が描かれきれていない。
終盤の活躍が唐突に感じられるという指摘もある。 - 暗く重いトーンが続く
希望や救いがほとんど描かれず、観終わった後に「寒々しい読後感」を覚える。
一部の観客には「救いがなさすぎる」と感じられる。 - ネイティブアメリカンの描写がステレオタイプに見えるという批判も一部にあり
失業・薬物・暴力といった描写が、現実の複雑さを単純化している。
🎥映像について
この作品は、なによりロケーションの力を最大限に活かした美しさが魅力的。
- 雪原の「無機質な美」と孤立感
映像の多くは一面の白に覆われた雪原で構成されており、視覚的には美しいが、心理的には圧迫感を与える。
この純白は、浄化ではなく無力・無関心・忘却を象徴しており、事件の不条理さを強調する。
ワイドショットで広大な風景を捉えることで、登場人物の孤立と無力感が際立つ。 - 登場人物の動きと環境の関係性
コリーは厚手の防寒着で慎重に雪上を歩き、環境に適応した者として描かれる。
対照的にジェーンは薄着で寒さに震え、「よそ者」としての違和感が映像で表現される。
物語が進むにつれ、ジェーンの姿勢が変化し、吹雪の中でも毅然と立つようになる。
これは彼女の内面の成長を視覚的に示しているのではないだろうか。 - 銃撃戦の演出静寂の中の暴力
終盤の銃撃戦では、音が雪に吸収されることで、銃声がこもり、恐怖が増幅される。
カメラは派手に動かず、静かに状況を見つめる視点を保つことで、リアリティと緊張感を両立。
以上、「ウィンド・リバー」の感想でした。


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