作品情報
- 公開:2024年04月05日
- 上映時間:117分
- 制作:カナダ、ハンガリー、フランス
- 監督:ブランドン・クローネンバーグ
- 視聴方法:PrimeVideo
キャスト
- アレクサンダー・スカルスガルド (ジェームズ・フォスター役)
- ミア・ゴス (ガビ・バウアー役/謎めいた女性)
- クレオパトラ・コールマン (エム・フォスター役/主人公の妻)
- トーマス・クレッチマン (スレッシュ刑事役/警官)
- ジャリル・レスペール (アルバン・バウアー役/ガビの夫)
あらすじ(ネタバレなし)
スランプ中の作家ジェームズは、妻と共に高級リゾート地を訪れるが、現地で出会った謎めいたカップルに誘われ、禁じられた敷地外へ足を踏み入れる。
そこで彼は、常識を覆す奇妙な制度と、自身の倫理観を揺るがす体験に巻き込まれていく。
以下、ネタバレあり
あらすじ(ネタバレあり)
🟩起:リゾート地での出会いと事故
スランプ中の作家ジェームズは、資産家の妻エムとともに、架空の高級リゾート地「リ・トルカ島」を訪れる。
創作のインスピレーションを得るための滞在だったが、ある日、彼の小説のファンだという女性ガビとその夫アルバンに出会い、4人で親しくなる。
ガビの誘いで、観光客には立ち入り禁止とされている敷地外へドライブに出かけ、海岸でバーベキューを楽しむ。
帰り道、ジェームズが泥酔状態で運転していた車で地元民を轢き殺してしまう。
ガビの指示でその場を離れ、翌朝、警察に逮捕される。
裁判もなく死刑を宣告されたジェームズに、ある選択肢が提示される…
それは、高額な費用を支払えば、自分のクローンを作り、そのクローンに罪を肩代わりさせることができるという制度だった。
🟨承:高額な制度と快楽への堕落
ジェームズはクローン作成を選び、処刑される自分のコピーを観客席から見届ける。
妻エムはショックを受けるが、ジェームズはどこか興奮した様子を見せる。
この経験をきっかけに、彼はガビたちの仲間に加わり、島の制度を利用して暴力・性・犯罪を繰り返すようになる。
仲間たちは皆、過去にクローン制度を使って罪を逃れてきた者ばかりで、ジェームズも次第に倫理観を失っていく。
彼らは警官を拉致し、暴力を振るうが、その警官がジェームズ自身のクローンであることが判明。
ジェームズは混乱し、自分が本物なのか、クローンなのか分からなくなっていく。
アイデンティティの崩壊が始まり、彼の人格は徐々に壊れていく。
妻エムは彼の変化に耐えられず、帰国を決意する。
🟥転:自己崩壊と暴力の果て
ジェームズは帰国を拒み、島に残ろうとする。
ガビは彼を弄び、支配しようとする。
彼女の目的はジェームズを服従させ、破壊することだった。
ジェームズは仲間たちに唆され、自分のクローンを殺すよう命じられる。
拒否するが、クローンが襲いかかってきたため、やむなく撲殺する。
この行為により、彼は完全に人間性を失い、暴力と快楽に支配された存在となる。
さらに、ジェームズが逃げようとバスに乗ったが、仲間たちは戦車のような車両で彼を追いかける。
幻覚剤の影響もあり、映像は歪み、現実と妄想の境界が崩れていく。
🟦結:島に残る“誰か”と観客への問い
追跡劇は、彼が自分自身から逃げられないことを象徴しており、ジェームズはついに「自分が誰なのか」を見失う。
ガビは彼に「あなたは何者でもない」と告げ、ジェームズのアイデンティティは完全に崩壊する。
彼はガビたちとともに空港へ向かうが、飛行機には乗らないという選択をする。
空港で他の仲間たちは何事もなかったかのように日常に戻るため帰国するが、ジェームズはひとり空港のベンチに座り続け、島に残った。
雨が降り始め、彼は再びリゾートへ戻る。
誰もいないヴィラで、彼は静かに座り、無表情のまま時間を過ごす。
ラストシーンでは、ジェームズが本物なのかクローンなのかは明かされない。
感想(ネタバレあり)
我らがミアゴス!彼女目当てで鑑賞。
ジェームズは彼らを「仲間」だと思っていただろうけど、きっとガビ達からしたらジェームズは「実験材料」であり、ただのオモチャだったのだろうなと感じた。
ガビたち、つまり富裕層の「常連」たちは、リ・トルカ島での暴力と快楽を一時的な娯楽として消費し、何事もなかったかのように日常へ戻っていった。
彼らにとってこの島は、罪をリセットできる「遊び場」であり、クローン制度を利用することで、現実の責任から完全に逃れられる。
「また来年も会えるといいわね」。この言葉、一件「来年も罪を犯して楽しみましょう」と言っているように聞こえるが、本当にそうなのだろうか?
ガビたちは、壊したおもちゃがまた日常に戻れると思っているだろうか。
もしかしたら…今度会う時は、楽しむ方ではなく、完全にガビたちを楽しませる側かもしれない。
富裕層として生きるクローンジェームズに嬲り殺される側、として…。
最後のシーンは、処刑されたのがオリジナルで、島に残ったのはクローンだった可能性も、逆にオリジナルが狂気に染まった可能性も考えられる。
この曖昧さが、映画のテーマである「アイデンティティの希薄化」「倫理の崩壊」「快楽による自己喪失」を象徴している。
島は、富裕層が罪を免れ、欲望を解放する”無限のプール“であり、ジェームズはその中に沈んでいった。
視聴者は最後まで「彼は誰だったのか?」という問いを突きつけられる。
ジェームズは「自分の物語の主人公」になろうとしていたのに、 気づけば「他人の物語の脇役」であり、「消費される側」だったという皮肉めいたストーリーだった。
✅魅力に感じたところ
- 倫理観の崩壊を描く構造が鮮烈
クローン制度によって「罪を肩代わりさせられる」世界観が、倫理の境界を曖昧にし、観客に不快な問いを突きつける。
ジェームズが”自分自身”を殺す場面など、アイデンティティの崩壊が強烈。 - ミア・ゴスの怪演が圧巻
ガビ役のミア・ゴスは、誘惑・支配・破壊を自在に操る”狂気の女神“として、観る者を圧倒する。
特にバスを止めてジェームズに「ベイビー」と呼びかける場面は、演技の域を超えた不気味さ。 - 観光地という“楽園”の裏側を暴くテーマ性
富裕層が罪を消費し、快楽だけを追求する倫理放棄ツーリズムを描き、現代の観光産業や資本主義への批判が込められている。 - 観客に解釈を委ねるラストの余韻
ジェームズが本物かクローンか、島に残った理由は何か…すべてが曖昧に終わることで、観る者自身の倫理観が試される。
❓気になったところ
- グロ描写・性描写が過激すぎる
ボディホラー的な演出や、母乳・暴力・性の混濁したシーンは、かなり人を選ぶ。
「何を見せられてるんだ私は」と感じた。 - 物語の整合性より”感覚”重視の構成
ストーリーが論理的に進むというより、ジェームズの感情と幻覚に引きずられる構造なので、1回目に見た時は置いてけぼりになった。 - 登場人物の動機が不明瞭
ガビたちの目的や背景がほとんど語られず、彼らがなぜジェームズを選んだのか、なぜあそこまで壊すのかが説明されなくて不気味。
🎥映像について
この作品は、観る人の「倫理の境界線」を試す装置のような作りになっている。
- クローネンバーグ印のボディホラー演出
肉体の歪み、血液、粘膜、幻覚などを駆使した映像は、観る者の生理的嫌悪感を刺激する。
特にクローン処刑シーンやドラッグによる幻覚描写は、映像と音響が一体となって不快さを演出。 - リゾートの美しさと暴力の対比
美しい海、豪華なヴィラのような空間が、暴力と快楽の舞台になることで、視覚的な皮肉が生まれている。 - 色彩と音響の操作が巧妙
赤・青・白などの色彩が感情や幻覚を象徴し、音響も不協和音や低音を多用して不安感を煽る。
特に幻覚シーンでは、映像が歪み、時間感覚が狂うような編集が施されている。


コメント