ヒトラーの忘れもの(Land of Mine/Under Sandet)/2016

4.5

作品情報

キャスト

  • ローラン・モラー(ラスムスン軍曹役/デンマーク軍人)
  • ルイス・ホフマン(セバスチャン・シューマン役/ドイツ少年兵)
  • ジョエル・バズマン(ヘルムート・モアバッハ役/ドイツ少年兵)
  • ミケル・ボー・フォロスゴー(エベ大尉役/デンマーク軍上官)

あらすじ(ネタバレなし)

第二次世界大戦直後のデンマーク。
ナチス・ドイツが埋めた地雷を撤去するため、捕虜となったドイツ人少年兵たちが海岸へ送られる。
彼らを監督する軍曹は、憎しみと葛藤の中で任務に向き合う。

以下、ネタバレあり

あらすじ(ネタバレあり)

🟩起:地雷原の任務

第二次世界大戦直後のデンマーク。
ドイツ占領が終わり、海岸にはナチス・ドイツが埋めた地雷が残されていた。
デンマーク軍は、捕虜となった10代のドイツ人少年兵たちに地雷除去を命じる。

ラスムスン軍曹は、若いドイツ少年兵たちを監督する任務を与えられる。
彼は彼らに強い憎しみを抱いており、初日から暴力的に接する。
少年兵たちは訓練も不十分なまま、素手で地雷を掘り出す作業に従事する。

彼らは海岸の一帯に埋められた数千個の地雷を撤去するため、毎日危険な作業を繰り返す。
ラスムスンは彼らに食事を与えず、軍の規則に従って厳しく管理する。
少年兵たちは疲弊しながらも、互いに励まし合いながら任務に向き合う。

🟨承:死と隠蔽

地雷除去作業が進む中、少年兵の一人が地雷の撤去に失敗し負傷する。
彼は双子の一人で、搬送された後に死亡した。
少年たちは飢えに耐えかねて、近所の家から家畜の餌を盗み食いしていたが、実際はそれはネズミの糞で、ほとんど全員が食中毒となった。

ラスムスンは死亡したヴィルヘルムの死を少年たちに隠し、回復していると伝えた。
彼は食料を多く発注し少年兵に与えたり、軍の命令に背いて彼らを守ろうとする行動を見せる。
そのため、他の軍人からは怪訝に思われる。
軍はヴィルヘルムの遺体の引き取りを拒否し、現場に埋めるよう命じる。
さらに数人が爆発事故で命を落とし、ラスムスンは次第に彼らへの憎しみよりも責任感を抱き始め、少年兵たちは仲間の死に動揺しながらも作業を続ける。
少年兵たちは地雷の構造や安全な除去方法を学びながら、任務を遂行する。
ラスムスンは彼らの人間性に触れ、態度を軟化させていく。
軍の上官エベ大尉は、少年兵の扱いに冷淡で、任務の完了だけを重視している。

ラムスンと少年は打ち解けていく。
しかし、全て除去が終わったはずの地区を走っていたラムスンの愛犬”オットー”が地雷を踏んで亡くなってしまう。

🟥転:任務の終わりと新たな命令

ラムスンは、少年たちを信じることを辞め、撤去が完了されたとする元地雷原を一列に並んで歩かせる。
逃げようとした少年もいたが、ラムスンを信じ、残ることとした。
直後、現地の少女が地雷原に入り込んでしまったと母親が駆け込んできた。
すぐさま少年兵たちは地雷の確認作業を開始する。
無事に少女は救出したものの、1人の少年がまだ着手していない地雷原を歩き出した。
嘔吐しながら地雷の爆破を受け死んだヴェルナーの双子の兄弟であるエンルストだった。
彼は少し歩いたところで跡形もなく吹っ飛んでしまった。

地雷除去の任務が終盤に差し掛かり、残された少年兵たちは最後の区域の作業に取りかかる。
作業に慣れてきた彼らだったが、その驕りからか、車に積んだ地雷の山を爆発させてしまう。
14人いた少年兵は、たった4人になってしまった。
ラスムスンはこれまでの彼らの努力を認め、任務完了後は故郷に帰れると約束する。

しかし軍から新たな命令が下り、少年兵たちは別の危険な地雷原へ移送されることになる。
ラスムスンは軍に抗議するが受け入れられず、少年兵たちは絶望する。

🟦結:海岸に残る者

作業が開始される日、ラスムスンは密かに少年兵たちを連れて軍のトラックに乗せ、移送命令を無視して彼らを解放する決断をする。
彼は彼らを国境500メートル手前まで送り届け、ドイツへ帰す手配をする。
少年兵たちは驚きのあまり感謝の言葉を伝える間もないまま、ラスムスンと別れる。
彼らは故郷への帰路につく。

エンドロールには、約150万個以上の地雷を対処したという文が流れる。
2000名のドイツ軍捕虜が半数近くが死傷し、彼らの多くは少年兵だったという。

感想(ネタバレあり)

もちろんドイツ…いや、ナチスがしたことは大きな罪だが、220万も埋まっている地雷を少年たちにやらせるという非道さが重い。
でも、じゃあ誰がやる?
誰かがやらなければこれからも国民が無意味に死んでいってしまうとしたら、やらざるを得ないのはきっとドイツの人間だ。

そのドイツ人の中でも、犯罪者や戦争責任者等ではなく、少年捕虜を使ったのも、デンマーク人のドイツに対する憎しみから来るものだとされている。
本来、捕虜に危険な労働を強いることはジュネーヴ条約違反だが、当時のデンマークはこれを黙認し、少年兵たちを使っていた。
きっと、自分の家の敷地に地雷を仕掛けられ、子供が死んでしまったら、私も同じように”仕掛けた奴の子供に撤去させる”かもしれない。
これは、黙認されている「復讐」だ。

「自分を憐れむ暇はないぞ」とデンマーク人は言った。
それは戦時中にデンマーク人が被害を受けながら、きっと何度も何度も何度も思ったことだ。

初めて、倉庫の中でひとりひとり本物の地雷の処理をするシーン。
1人失敗した。
誰も何も言わずに次のシーンになった。

地雷の除去が終わったら帰れる。
その約束だけを頼りに少年たちは頑張ろうと心に決める。
腹ばいでゆっくりと進み、地雷を撤去する。
この撤去が終わってドイツに帰ったら何をするか…どこで働くとか、ビールを飲むとか、女を抱くとか、何を食べるとか、話を弾ませる彼ら。
現地の少女とも少し仲良くなる。
少年は兵士と呼ばれているれど、ただの男の子だった。
戦争さえなければ、人から恫喝されることも、疎まれることも、飢えることも、普通ではないはずだった。

実践での最初の犠牲者は双子の片割れだった。
両腕を吹き飛ばされた場面もしっかり映してあり、特殊メイクがすごかった。
字幕にはなっていないが、周りの少年の「軍曹殿!」の声に交じって、彼の「ママ…ママァ…」という声が虚しかった。
ネズミの糞を食べて体調不良になった一同の調査をした際、いい気味だと笑った隣家の母親を見て、「可笑しいか?」と聞いた軍曹。
このあたりから少し情が湧いてきたようだ。

特に、ネズミの糞を食べなかった少年兵”セバスチャン”は、ラムスン軍曹と少しずつ打ち解ける。
自分のお守りを渡す時に「バァン!」と驚かせたり。
虫やリスなどの小さな生き物を可愛がる様はとても印象的だった。
どのような環境に置かれていても、本能として小さきものを助けることで、自分の存在価値を再認識したいのだろう。
ラムスンは一人一人を名前で呼ぶようになった。
しかし、オットーの死から、順調に見えた関係性は一瞬で崩れた。
ドイツ語では犬の鳴き声は「Wuff(ヴッフ)」だそうだ。

地雷の数が正しいかどうかなんて確信できない。
地雷原を歩かせるシーンは、「掃除したなら床を舌で舐められるよね」と言ってのける金持ち雇い主の進化版という感じだった。
綺麗にしたなら、歩けるよね?

少女を助けたエルンストのシーンは、ある意味衝撃的な映像だった。
双子の弟を失った兄が、少女を助けて消えてしまう。

実話をもとにしているとのことだが、最後、ラムスンはどうなったのだろうか…
きっと重い処罰が下ったのだろう。
しかし、願わくば、4人の少年兵は地雷で死亡したという事にしてほしい。
敢えてラムスンがその後どうなったかは、調べないでおこう。
この映画は、そのような「余白」が多い作品だった。

✅魅力に感じたところ

  • 史実に基づいたテーマ性
    第二次世界大戦後の知られざる歴史(地雷撤去に駆り出された少年兵)を掘り起こし、倫理的問いを投げかける。
  • 少年兵の描写が繊細
    加害者であり被害者でもある少年兵たちの複雑な立場を、感情に頼らず事実ベースで描写している。
  • ラスムスン軍曹の変化が構造的に明確
    憎しみから共感へと変化する過程が、行動と状況の積み重ねで説得力を持って描かれる。
  • 緊張感の持続
    地雷撤去という“いつ爆発するか分からない”状況が、物語全体に持続的な緊張を与えている。

❓気になったところ

  • 説明不足な部分がある
    軍の命令系統や少年兵の背景など、観客が補完しなければならない情報が多い。
  • 登場人物の描き分けが弱い
    少年兵たちの個性がやや薄く、誰が誰か分かりづらい。
  • 感情の爆発が抑制されすぎている
    演出が静かで抑制的なため、ドラマとしての盛り上がりには欠ける。

🎥映像について

この作品は、映像の美しさと物語の残酷さの対比が強い構造を持つ作品。

  • 自然光とロケーションの美しさ
    デンマーク西海岸の砂丘と空の色彩が、戦争の残酷さと対照的に映える。
  • 構図と余白の使い方が巧み
    地雷撤去の場面では、画面の余白が“爆発の予兆”として緊張感を生む。
  • 色彩の対比が象徴的
    美しい風景と血・汚れ・制服の色が、視覚的に戦争の痕跡を浮かび上がらせる。
  • 音と映像の連携
    静寂と爆発音のコントラストが、映像の緊張を高める。

以上、「ヒトラーの忘れもの」の感想でした。

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