作品情報
- 公開:2023年05月05日
- 上映時間:112分
- 制作:フランス、イギリス、ドイツ
- 監督:ミア・ハンセン=ラヴ
- 視聴方法:U-next
キャスト
- レア・セドゥ(サンドラ役/通訳者でシングルマザー)
- パスカル・グレゴリー(ゲオルグ役/サンドラの父、かつて哲学教師)
- メルヴィル・プポー(クレマン役/サンドラの旧友男性)
- ニコール・ガルシア(フランソワーズ役/サンドラの母)
- カミーユ・ルバン・マルタン(リン役/サンドラの娘)
あらすじ(ネタバレなし)
通訳として働くシングルマザーのサンドラは、介護が必要な父と向き合いながら、旧友との再会をきっかけに新たな恋に踏み出す。
日常の中で揺れる感情と選択を静かに描く、パリを舞台にしたヒューマンドラマ。
以下、ネタバレあり
あらすじ(ネタバレあり)
🟩起:父の変化と日常の重なり
パリで通訳として働くサンドラは、8歳の娘リンと2人暮らしをしている。
夫を亡くしてから数年が経ち、仕事と育児に追われる日々を送っている。
父ゲオルグは元哲学教師で、現在は神経変性疾患により視力と記憶を失いつつあり、介護が必要な状態となっている。
サンドラは母フランソワーズと協力して父の世話をするが、ゲオルグの症状は進行し、会話もままならなくなる。
サンドラは父の介護施設を探し始め、費用や空き状況に悩まされる。
ゲオルグの恋人レイラも関わるが、介護の中心はサンドラと母に委ねられている。
サンドラは父の蔵書や遺品の整理にも追われ、日常の中で父の変化を受け止めながら過ごしている。
🟨承:旧友との再会と揺れる関係
ある日、サンドラは旧友クレマンと偶然再会する。
クレマンは既婚者で子どももいるが、サンドラとの再会をきっかけに2人は親密になっていく。
クレマンは宇宙物理学者として働いており、家庭に問題を抱えている様子だった。
サンドラは彼との関係にときめきを感じながらも、父の介護や娘との生活との両立に悩む。
2人は頻繁に会うようになり、肉体関係も持つようになる。
サンドラはクレマンとの時間に安らぎを感じるが、彼の家庭の存在が常に影を落とす。
父ゲオルグは病院を強制退院させられ、施設に入所するが、環境に馴染めず混乱し、サンドラは何度も見舞いに訪れる。
クレマンとの関係は深まる一方で、サンドラの生活は複雑さを増していく。
🟥転:関係の崩れと父の喪失
クレマンは家庭との板挟みに苦しみ、サンドラとの関係を一時的に断とうとする。
サンドラは傷つき、彼の連絡を待ち続ける日々を送る。
父ゲオルグは施設内でさらに症状が悪化し、サンドラの顔も認識できなくなる。
サンドラは父の蔵書を処分することになり、哲学書の中に残された父の文章を見つける。
クレマンから再び連絡があり、2人は再会し、関係を再構築する。
父ゲオルグは新しく郊外の酷い施設や希望していた施設に転々と入居し、症状は悪化するものの元気そうに暮らす。
クレマンとの関係は安定しつつあり、サンドラは新たな生活の兆しを感じ始める。
🟦結:新たな朝と歩み出す日々
クレマンは家庭を離れ、サンドラとの関係に向き合う姿勢を見せる。
3人はサクレ・クール寺院を訪れ、パリの街を見渡す場面では、クレマンが「家はどこ?」と尋ね、分からないと言うリンに、クレマンは「まっすぐ先だ」と答える。
日常は続き、サンドラは新しい朝を迎える。
感想(ネタバレあり)
レア・セドゥ目当てで鑑賞。
こんなにベリーショートが似合うフランス人、他にいてます?
子供の「おじいちゃんたちに会うの面倒くさーい」は、あるあるだけど残酷だよね。
そりゃそうなんだけどさ、枯れ行く老いぼれを労わってくれ…。
「公営老人ホームは誰かが死なないと入れないよ」というのは、悲しくとも厳しい現実。
私はまだ20代だから分からないけど、きっとゲオルグ本人もつらいだろうな。
ヒョウアザラシのサイズ調べてびっくり。
ゴマフアザラシと同じ生物とは思えない(笑)
父の教え子に声をかけられて、ふいに涙してしまったシーンは、なんだか理解できるかも。
身近な人や、親身になってくれる人、事務的にサポートしてくれる人には素直に弱みを見せられず、つい「”尊敬できた父”を知っている人」につい本音を漏らしてしまう。
子供がいるとはいえ、やっぱりときめく異性と出会うと、付き合うまでのつかず離れずの期間が楽しいよね。
仕事に子育てに介護手続きに追われて、くたくたの毎日にひと匙のドキドキ。
でも、子供は「なんであの子のパパが遊びに来るの…?」と不思議に思う。
シンママの恋ってむずいなぁ。
いや、結婚している夫婦も、子供が物心ついてからはスキンシップは難しいか。
「ママァ~」とベッドに寝に来たところに「クレマンもいるのよ」「うふふっ」にはびっくり。
あれだけ小さいと「えっ、こわ!キショ!」とはならないのね。
サンドラも、はじめは小学生の男の子とおそろいにできそうなボーイッシュでノンセクシャルな服装だったのに、クレマンと肉体関係を持ってからは、おしゃれな花柄のワンピースや真っ赤なニットになり、世界が色づいたように見えた。
そして、距離を置いたところでまた「女性」ではなくパーカーやカッターシャツで、機能性重視の「母親」の装いになった。
でもさ、結局不倫は不倫で、捨てられた家庭のことを考えるとこんなに爽やかに終わらせていいの?と自分の中の正義感がモヤモヤする。
タクシーがAudiなのが気になった。
フランスではAudiって高級車ではないのかな?
個人的にイタリア語をほんの少しずつ勉強しているので、イタリアのアマルフィ海岸を見てきたという話題が出てきたのは少し嬉しかった。
このシーンで、リンが祖父に「ボンジュール、パピー」と言っていたが、なぜパピーなのだろう?
サンドラが「パピー」と呼ぶから、リンも「おじいちゃんではなくパピーと呼んでいるから」かな?
私も母の姉、父の義姉を「ちゃん」「姉さん」付けで呼んでいる。
フランス語は分からないけど、こういうちょっとしたところに母と娘のコミュニケーションや家庭の雰囲気が出るよね。
親は大切にしたいけど、認知症になりコミュニケーションが取れなくなり、無意味だと感じ、行政にも見捨てられたりして、しんどく切ない気持ち。
こんな感情を私も今後味わうのだろうか。
多分、大多数の人が味わっているのだろう。
この物語は、フィクションではなく、誰かのドキュメンタリーだと感じた。
誰かとは、「どこかにいるかもしれない世界の果ての誰か」ではなく、「地下鉄で隣に座る誰か、あるいは自分」である。
✅魅力に感じたところ
- 透明感ある映像と自然光の演出
日差しと空気感を活かした映像美が際立つ作品。
この監督の他の映画を見たくなる。
悲しみや葛藤の場面でも、過剰な演出を避けてニュートラルな視座を保つことで、観客が自然に物語に入り込める。 - レア・セドゥの抑制された演技
主張しすぎない存在感で、日常の中の揺らぎや感情の流れを繊細に表現している。
派手さを抑えた衣装や表情が、物語のリアリズムと調和している。 - 介護・恋愛・育児の同時進行という構造
サンドラの人生が複数の軸で進行し、現代的な女性のリアルな姿を描いている。
どれか一つを選ぶのではなく、すべてを抱えながら生きる姿勢が物語の核。
❓気になったところ
- 恋愛描写がベタすぎる
クレマンとの関係が、よくある既婚男性との不倫的展開に見えがち。
サンドラの感情が急激に揺れる場面が多く、構造的にはやや平板。 - 邦題と原題のニュアンスのズレ
原題「Un beau matin/One Fine Morning(ある美しい朝)」に対し、邦題「それでも私は生きていく」は情緒的すぎる気がする。
映画の淡々とした語り口に対して、邦題が過剰に意味づけをしてしまっていると感じた。
🎥映像について
この作品は、“何も起こらないようで、すべてが起きている”日常の深みを映像で描く作品。
- 自然光とロケーションの活用
パリの街並みや室内の光を活かし、人工照明を極力排したリアルな質感がある。
サクレ・クール寺院から街を見渡すラストシーンなど、空間の広がりが感情を補完している。 - カメラの距離感と構図
登場人物に寄りすぎず、適度な距離で観察するような視点。
手持ちの揺れや極端なクローズアップを避け、“日常の連続性”を映像で表現している。 - 編集のリズムと余白
大きな事件や転換点を強調せず、日々の積み重ねを静かに繋ぐ編集が魅力的。
音楽も控えめで、映像と台詞の間に“考える余白”を残している。


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